こんばんは、すいもうです。
さて、本日は、ヴィヴィオ視点です。
まぁ、すでに、妹ズの方で方向は決まっちゃっていますが、ようやくこっちも方向が決まります。
どういうことなのかは、追記にて。
では、お黄泉ください。
月想う者~前提条件~
一瞬、聞き間違いかと思った。
だが、はっきりとアインハルトは言った。
「お母様のために、という気持ちは、いったん忘れるべきではないでしょうか?」
聞き間違いと思いたいような一言だった。しかし、実際にアインハルトはそう言った。なぜ、そんなことを言い出したのか。ヴィヴィオにはまるでわからなかった。
「な、なに言っているんですか? 冗談にしては」
「いえ、冗談ではなく、本気で言っています」
冗談ということにしたかったが、アインハルトは頷いてはくれなかった。なぜ、そんなことを言い出すのか。いや、言い出したのか、やはりわからない。
アインハルトのことだから、なにかしら意味があるのだろう。だが、その意味はいまのところ理解できずにいた。いったいなにが理由でアインハルトは、こんなことを言い出したのだろうか。
「アインハルトさんが、なにを言いたいのか、私にはわからない」
あえて、正直に自分の気持ちを伝えた。アインハルトもわかっていたのか、素直に頷いていた。
「お母様のために。ヴィヴィオさんたちが、その一心で、お母様に、なにかをしようとしていたのは、私もわかっています」
わかっていることを、いや、わかり切っていることをアインハルトは言った。当然、それで終わりではない。続きがある。その続きがどういうものであるのかは、いまのところ、読めなかった。
「ですが、それではだめだと思います」
本題を切り出してきた。だが、その本題はやはり耳を疑うようなことだった。なぜ、母のためにという想いでは、だめなのか、やはりわからなかった。母を想うのは当然のことではないのだろうか。
「……怖い顔されていますね。でも、それも当然です。私はヴィヴィオさんの、いえ、ヴィヴィオさんたちのお気持ちを踏みにじるようなことを口にしていますから」
「そこまでわかっているのなら、なぜ?」
たしかに、アインハルトの言っていることは、自分たちの想いを、母への感謝と贖罪の想いを踏みにじるようなものだ。しかし、それをわかっていて、なぜ、アインハルトはこんなことを言い出したのか。まだ話は終わってもいない。だからこそ、アインハルトがなにを言おうとしているのか。それを知りたかった。
「理由、話してくれますよね?」
「はい。そのために、ヴィヴィオさんとふたりっきりになりましたから。でなければ、口にできないことですから。クレアさんとシンシアさんの前では、特に」
アインハルトの言うことは、もっともだ。あの妹ふたりが、こんなことを言われたら、どうなるのかは、火を見るより明らかだ。それがわかっているからこそ、アインハルトは、ふたりっきりのリビングで、こんな大それたことを言い出したのだろう。
アインハルトさんも、すっかりとクレアたちのお姉ちゃんだもんね。
ヴィヴィオはそう思いながら、アインハルトに続きを促した。
「ヴィヴィオさん、あなたは、罪の意識に囚われすぎています」
「罪の意識?」
「はい。お母様の気持ちを踏みにじった。そのことを考えすぎている、と言った方がいいかもしれません」
「考えるに決まっているじゃないですか。だって、私は」
「……まだ話は終わっていませんので」
「あ、すいません」
つい、かっとなってしまった。
母への申し訳なさ。それに囚われすぎていた、と言われても、そんなの当たり前だ。自分たちのしたことは、母をあれほどまでに傷つけたことは、とうてい許されることじゃない。だから、考えすぎて、当たり前だ。たしかに、考えすぎているかもしれないが、それだけ母のことを想っているというなによりもの証拠だった。
「ヴィヴィオさんとクレアさん、シンシアさんが、お母様のことを、それだけ大切に想われているのは、とても素晴らしいことだと思います。そういう絆こそが、この家に住まう方々を色鮮やかに彩っているのだと私は思います」
アインハルトがなにを言おうとしているのか。少しわからなくなった。
たしかに、絆という面において、この家は、強い結びつきがあると思う。学園に入るまでは、それが普通だと思っていたが、学園に入って、それが間違いだというのがわかった。決して、この結びつきの強さは普通のものではない。それだけ、家族全員がそれぞれのことを思い合っている。そういう証拠なんだろう。そのことをアインハルトは褒めている。だが、褒めているだけではないはずだ。仮に褒めているだけだとしたら、さっきの囚われすぎている、という話と結びつかなくなってしまう。
アインハルトさんは、なにを言おうとしているんだろう。そう思いながら、ヴィヴィオは、アインハルトの言葉の続きを待った。
「ですが、強いからこそ、時には視界が狭まってしまうのです。ヴィヴィオさん。よく考えてみてください。あのお母様が、特別扱いを受けて、果たして喜んでくださるのか、と」
「特別扱いって、ただ、謝罪と感謝のために」
「それが特別扱いになる、と言っているのです。お母様は、そういう扱いを受けるのは好きではないのではないですか? あの方は、自身だけを特別扱いされるよりも、みなさんで楽しめることを選ぶ方ではありませんか?」
「それは」
否定はできなかった。
実際、母はそういう人だった。
自分のことを優先せず、他人を優先してしまう。よく言えば、優しい。悪く言えば、自己犠牲の塊。高町フェイトという人は、そういう人だった。そういう人だからこそ、父も自分たち姉妹は、母が大好きだった。そして、父を除けば、家族の中で一番母のことをよくわかっているのは、自分のはずだった。その自分が、特別扱いを母にしようとしていた。今日の失態のことばかりが頭に浮かびすぎていた。その結果、母の望まないことをしようとしていた。たしかに、罪の意識に囚われすぎている、と言われても仕方のないことだった。
「参ったな。フェイトママの娘歴は、私が一番長いっていうのに、そんな当たり前なことさえも忘れていたんだ」
「……仕方がないと思います。今回ばかりは」
「仕方がない、で済ませたくはないです。だって、私は」
「一番上のお姉ちゃんなんだから、ですか?」
くすり、とアインハルトが笑った。先手を打たれてしまった。苦笑いしながら、頷いた。
「アインハルトさんには、適わないなぁ」
「今日のヴィヴィオさんが、読みやすいだけですよ」
「そうですかね?」
「ええ。でも、大丈夫です」
「なにが?」
「もう間違いというか、方向転換すべきだということはわかったはずです。なら、あとは進むべき方向をまっすぐに見やるだけでいいはずです」
「そうですね。考えましょうか。フェイトママはもちろんとして、みんなが楽しめることを」
「はい、ヴィヴィオさん」
アインハルトが静かに笑う。その笑みに、胸が高鳴る。同時に、思う。ああ、この人が私のお嫁さんで本当によかった、と。そうヴィヴィオは思いながら、アインハルトにと笑みを返した……。
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テーマ : 二次創作 - ジャンル : 小説・文学
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